9月6日(水) 2023年共通入試問題 国語 古典攻略

問題ポイント

円地文子と吉田精一との対談を通して、枕草子と源氏物語の比較を描いた作品です。

著者略歴

A 「源氏物語をめぐって」 円地文子、吉田精一
・円地文子
日本の小説家。江戸末期の頽廃的な耽美文芸の影響を受け、抑圧された女の業や執念を描いて古典的妖艶美に到達。戦後の女流文壇の第一人者として高く評価された。『源氏物語』の翻訳でも知られる。

・吉田精一
日本の国文学者。東京大学教授を経て、大妻女子大学名誉教授。近代文学専攻。1979年勲二等瑞宝章受章。

B 「枕草子研究」 塚原鉄雄
・塚原鉄雄
日本の国語学者・国文学者。大阪市立大学名誉教授。

本文概要

上記の文章は、日本の古典文学作品「枕草子」と「源氏物語」について、それぞれの基本的な表現姿勢や作品の特質に焦点を当てています。最初の部分(A)では、円地文子と吉田精一が「源氏物語」の翻訳と「枕草子」に対する自分たちの解釈について話しています。円地文子は「枕草子」に登場する「定子」の描写に特に注目しており、清少納言が定子をどのように美化したか、その背景や理想について考察しています。

次の部分(B)は塚原鉄雄による比較分析で、「枕草子」は「をかし(興趣・愉快)」の文学であり、「源氏物語」は「あはれ(感動・情感)」の文学であると指摘しています。具体例として、両作品における雪の描写が挙げられ、その違いが明らかにされています。清少納言は客観的な観察者として「枕草子」を書き、紫式部は主観的な心情で「源氏物語」を書いていると説明しています。

この分析により、同じテーマ性でも、作品や作者によって異なるアプローチがされることが明らかにされています。そして、それぞれの作品が独自の表現と深みを持っていることが確認されます。

作品の中で例示された古典文学

「枕草子」 清少納言 
11世紀初頭の日本で清少納言によって書かれた随筆集です。この作品は日常の出来事、自然、季節、人々の行動といった多様なテーマについて短いエピソードや考察、詩が綴られています。形式やスタイルが自由で、日本文学史においても非常に重要な位置を占めています。感受性が豊かで、女性の視点からの観察が評価されています。現代に至るまで、その洗練された文体と深い洞察力が高く評価されています。

 

「源氏物語」 紫式部  
11世紀の日本で紫式部によって書かれた長編物語です。この作品は「光源氏」と呼ばれる貴族の一生と恋愛を中心に描き、多くの人々との関わりを詳細に綴っています。文学、歴史、心理学、風俗など多角的な視点から分析され、日本文学だけでなく、世界文学においても高く評価されています。美しい言葉と緻密な人間描写で知られ、日本の古典文学の代表作とされています。

引用文

〔実例一〕
しをれたる前栽のかげ心苦しう、遣水もいといたうむせびて、池の氷もえもいはずすごきに、童べおろして
雪まろばしせさせたまふ。(『源氏物語』〈朝顔〉)
〔実例二〕
雪降りにけり。登華殿の御前は立蔀近くてせばし。雪、いとをかし。(『枕草子』〈一八四段〉)
〔実例三〕
今朝は、さしも見えざりつる空の、いと暗うかき曇りて、雪のかきくらし降るに、いと心細く見出だすほどもなく、白う積りて、なほいみじう降るに、随身めきて、ほそやかなるをのこの、傘さして、そばの方なる塀の戸より入りて、文をさし入れたるこそをかしけれ。(『枕草子』〈二九四段〉)

〔実例一〕から〔実例三〕までは、どれも、雪の状景である。だが、〔実例一〕の『源氏物語』の作者である紫式部は、「心苦し」「むせぶ」「すごき」と、主観的な心情で叙述している。しかし、〔実例二〕と〔実例三〕の『枕草子』の作者である清少納言は、客観的な印象で記述している。

ここに、『枕草子』と『源氏物語』と、ひいては、清少納言と紫式部との、表現姿勢における基本的な相違が、理解できるであろう。

現代語訳(実例一から実例三)

〔実例一〕
雪に撓(たわ)んだ植込みの姿がいたましく感じられ、遣水もひどくむせび泣くような音をたて、池の氷も無性に寂しく気持をそそるような風情なので、大臣は、女童を庭に下ろして雪まろがしをおさせになる。

〔実例二〕
雪が降っていたのだった。登華殿の御前は立蔀が近くにあって狭い。雪はとても趣がある。

〔実例三〕
今朝はそんなふうにも見えなかった空か、まっ暗に一面に曇って、雪が空も暗くなるほど降るので、非常に心細い気持で外を眺めているその間にも、みるみるうちに白く積って、その上にも盛んに降り続く、そんなところに、随身めいてほっそりした男が、傘をさして、脇の方にある塀の戸から入って、手紙を差し入れたのはおもしろい。