入試の現場では、すべての問題に正解することはほとんどありません。限られた時間の中で、「どの問題から手をつけるか」「どこに時間をかけ、どこを見送るか」といった判断が、合否を分ける分水嶺になります。実はこの判断の積み重ねこそが、見えにくいけれど確かな学力の中核であり、「どの知識を持っているか」ではなく、「どの知識を、どう使うか」を問う力にほかなりません。
私たちはこの段階で、知識を積み上げる学びから一歩進めて、「使う」「運ぶ」学びへと、子ども自身の視点を移していきます。たとえば、同じ関数の公式を持っていても、それを一つの図の中でどう組み合わせ、どこに着目して問題を処理するかは、まったく別の力です。社会や理科でも、知識が断片のままではなく、「条件が変わったときにどう応用するか」「複数の情報をどうつなげるか」といった柔軟な思考の動きが求められます。こうした力は、単なる演習量ではなかなか育ちません。必要なのは、「この知識をどこで使えるようにしておくか」という意識と、それを整理するための“土台”です。
そのため私たちは、単元ごとの学習を終えるたびに、子ども自身が「どの知識が、どんな問題で使われたか」「他の場面では応用できそうか」といった問いを持てるよう、対話的な振り返りの時間を重ねています。また、模試や演習では、「どの問題にどれだけ時間を使ったか」「見送った問題は本当に見送るべきだったか」といった“戦略のふり返り”も行い、自分の判断を他人の評価ではなく、自ら検証する視点を育てていきます。
こうした姿勢が身についてくると、学力の見え方が変わってきます。「あの問題を落とした」という一面的な評価ではなく、「あそこで時間配分を間違えた」「知識はあったけれど扱い方が甘かった」といった立体的な分析ができるようになります。そこには、失敗を単なる反省で終わらせず、次への戦略へと転換していく柔軟な学びの姿があります。
私たちが目指しているのは、どんなに複雑な問題であっても、「まず何をすべきか」「どこから整理するか」を自分で判断できる生徒です。それは、“答えを知っている”という学力ではなく、“使い方を持っている”という新しい意味での学力です。情報を持つ力から、情報を運ぶ力へ。その転換点を、一人ひとりの思考の中に丁寧に築いていくことこそが、これからの入試への確かな準備になると、私たちは考えています。